日本財団 図書館


 

はじめに

 

人口と食糧の関係は、人類にとって永遠の課題である。そのバランスの崩壊と均衡への回復の循環は、人類の歴史でもあったといえよう。しかし、第2次大戦後の世界は冷戦構造という不安定な政治状況の中で、歴史上稀な画期的な食糧生産能力を達成した。

他方、世界人口も例のない異常な増加を開始した。1960年代から1970年代前半にかけての15年間の世界人口の年平均増加率は2%に達した。しかも、それ以降低下傾向に転じ、今日(1990−1995)では1.48%にまで下がっている。これに対し、世界の食糧生産増加率は1950年から1984年の35年間に年率3%という、はるかに人口増加率を上回る水準を達成した。人類は、食糧という生存条件の苦悩から解放されたかの如くであった。

しかし、1984年から1993年の10年間に、穀類の生産高の増加率は突如として年率1%に逆転してしまった。異常な食糧増産を可能にした科学技術上の諸条件にみられる収穫逓増の法則も収穫逓減、減少への転換や自然の制約が発現してきた。

単なる一部の地域や国家における人口と食糧のアンバランスの問題ではない、58億(1996)という世界人口、年間8,000万人以上の増加、そして2050年には100億に近い巨大な人口が予測されている人類全体の生存にかかわる問題である。

世界にはなお9億人という飢餓状態に苦しんでいる人口がいると言われている。私共はこのような人類の危機に対してあらゆる角度から、多くの専門家による分析を試みた。特に、アジアの人口を念頭におきながら、食糧需給の予測的展望を行い、今後の対策の方向を示唆した。時宜を得た研究として大方の参考になれば幸いである。

終わりに、本書作成事業にあたり、多大なご支援をいただいた日本財団(曾野綾子会長)ならびに国連人口基金(ナフィス・サディック事務局長)に感謝申し上げる。

 

平成9年3月

 

(財)アジア人口・開発協会理事長 前田福三郎

 

 

 

目次へ   次ページ

 

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION